Executive Summary
– 土壌の酸性化は、浸出が時間をかけてゆっくりと土壌を酸性化する、降雨量の多い環境における自然のプロセスです。
– 集中農業は多くのプロセス(浸出の増加、肥料の追加、生産物の除去、土壌有機物の蓄積)によって土壌酸性化を早めることがあります。
– 主要な肥料栄養素の中で、窒素は土壌pHに影響を与える主要な栄養素であり、土壌は使用する窒素肥料の種類によって酸性になったりアルカリ性になったりする。
– 硝酸塩ベースの製品は窒素肥料の中で最も酸性化が少ないが、アンモニウムベースの製品は土壌を酸性化する可能性が最も高い。
– リン肥料の使用による土壌の酸性化は、窒素に起因するものに比べて小さいが、これはこの栄養素の使用量が少なく、リン1kg当たりの酸性化が小さいためである。 リン酸は最も酸性化するリン系肥料である。
– カリ肥料は土壌pHにほとんど、あるいは全く影響を与えない。
背景土壌の酸性化は、中〜多雨の地域で広く見られる自然現象であり、農業生産システムは、土壌中の窒素(N)、リン(P)、硫黄(S)の自然循環の乱れ、土地からの農産物の除去、土壌を酸性化またはアルカリ性化する肥料や土壌改良剤の添加により、土壌酸性化の過程を促進させることができる(ケネディ1986)。 土壌pHの変化は、土壌の初期pHとpH変化の方向と速度によって、有利にも不利にもなる。例えば、アルカリ性土壌で土壌pHが低下すると、Pと亜鉛(Zn)などの微量栄養素の利用が可能になり、作物生産に有利になる(Mitchell et al.1952)。 一方、強酸性土壌では、土壌 pH が低下すると、アルミニウム(Al)やマンガン(Mn)の溶解度が高まるため、作物の毒性に対する感受性が高まるという点で不利になる可能性がある(Wright 1989)。
農業システムにおける土壌pHの変化の主要なプロセスと理由を以下に説明する。
肥料の使用
農業における鉱物または有機肥料の使用は、土壌への栄養分の投入を増加させ、栄養分が適用される形態と土壌-植物系におけるその運命は、土壌pHへの全体的影響を決定する。 大栄養素(N、P、カリウム(K)、およびS)は、微量栄養素よりもはるかに大量に土壌に加えられるため、pHに大きな影響を与える。
窒素
農業システムにおける土壌pHの変化の主要な要因は、おそらくNの形態と土壌-植物系でのNの運命である。
窒素は多くの形態で土壌に加えることができるが、使用される肥料Nの主な形態は、尿素(CO(NH₂)₂)、リン酸一アンモニウム(NH₄H₂PO₄)、リン酸二アンモニウム((NH₄)₂HPO₄)である。 硝酸アンモニウム(NH₄NO₃)、硝酸カルシウムアンモニウム(CaCO₃+NH₄(NO₃) 硫酸アンモニウム((NH₄)₂SO₄)、尿素硝酸アンモニウム(尿素・硝酸アンモニウム混合物)、ポリリン酸アンモニウム(n)等。)
土壌pHの変化という点では、電荷を持たない尿素分子(0)、カチオンのアンモニウム(NH₄+)、アニオンの硝酸(NO₃-)がNの主要分子である。 窒素がある形態から他の形態に変換される際には、酸性の発生や消費が伴い、植物による尿素、アンモニウム、硝酸塩の取り込みも土壌の酸性度に影響を与える(図1)。 土壌の酸性度と窒素肥料((Davidson 1987)より改変)。 MAP=リン酸一アンモニウム,DAP=リン酸二アンモニウム,SoA=アンモニア硫酸塩,CAN=硝酸アンモニウムカルシウム,硝酸ナトリウム
図1からわかることは,アンモニウム系肥料はアンモニウム分子が硝酸塩に硝化するごとにH⁺イオンが2個発生するので,土壌が酸性になることである。 酸性化の程度は、アンモニウムから生成された硝酸塩が溶出するか、植物に取り込まれるかによって決まる。 硝酸塩が植物に取り込まれた場合、アンモニウム1分子あたりの純酸性化は、硝酸塩が溶出した場合のシナリオと比較して半分になる。 これは、取り込まれた硝酸塩1分子につき、1つのH⁺イオンが消費される(あるいはOH-が排泄される)ためで、これは根圏でpHが上昇するとよく観察される(Smiley and Cook 1973)。 無水アンモニアと尿素は、アンモニウムに変換する際に H⁺ イオンが 1 つ消費されるため、アンモニウムベースの製品よりも酸性化の可能性は低い。 硝酸塩系肥料は酸性化の可能性がなく、硝酸塩を取り込む際に1つのH⁺イオンが植物に吸収される(またはOH-が排泄される)ため、実際には土壌pHを上昇させることができる。
リン
土壌に加えるリン肥料の形態は、主に土壌pHに応じてリン酸分子によってH⁺イオンが放出または獲得されて土壌酸性度に影響を与えることがある(図2)。 リン酸(PA)を土壌に添加すると、土壌pHが〜6.2未満の場合は1個のH⁺イオン、土壌pHが8.2以上の場合は2個のH⁺イオンが放出され、分子は常に土壌を酸性化させることになる。 リン酸一アンモニウム(MAP)、過リン酸一種(SSP)、過リン酸三種(TSP)はすべて、H₂PO₄-イオンの形で土壌にPを添加し、pH7.2以上の土壌を酸性化するが酸性土壌では土壌pHに影響を与えない。 リン酸二アンモニウム(DAP)のPの形態は、HPO₄²-で、酸性土壌(pH<7.2)をアルカリ性にすることができるが、pH>7.2の土壌には影響を及ぼさない。 ポリリン酸アンモニウム(APP)の加水分解は、P₂O₇⁴-分子として存在するPがHPO₄²-に変換し、pH中性となるので、P添加による酸性化はDAPと同様と見なすことができる。 SSPやTSPは、反応生成物が非常に酸性であるため、土壌の酸性化を引き起こすとされることがある。
Ca(H₂PO₄)₂+ ₂H₂O -> CaHPO₄ + H⁺ + H₂PO₄-
しかしpH値7未満の土壌では、土壌が酸性になる。7の場合、以下の反応により生成された酸が中和され、正味の酸性化は起こらない。
CaHPO₄ + H₂O -> CaHPO₂+ + H₂PO₄- + OH-
高pH土壌(pH>7.2)では、H₂PO₄-分子からH+イオンが解離すると、ある程度の酸性度が発生する。
作物のPの取り込みは、1年間に取り込まれる肥料のPが少量であるため、土壌酸性度にほとんど影響しない-したがって、肥料の化学性がpH変化を支配し、異なる正リン酸イオンの取り込みについて根圏pHの有意差は観察されていない。
図2. 土壌の酸性度とP肥料。 MAP=リン酸一アンモニウム、DAP=リン酸二アンモニウム、
SSP=シングル過リン酸、TSP=トリプル過リン酸、APP=ポリリン酸アンモニウム。
硫黄
土壌に添加する硫黄肥料の形態は、主に元素状S(S⁰)またはチオ硫酸(S2O3²-、チオ硫酸アンモニウム-ATS中)の添加によるHイオンの放出を通じて土壌酸度に影響を与えることがある(図3)。 しかし、土壌に添加され植物に取り込まれるSの量は、一般にNに比べて少ない。
図3.S(S)とS(S)の関係。 土壌の酸性度と硫黄肥料。 S⁰=元素状S、ATS=チオ硫酸アンモニウム、SoA=アンモニア硫酸塩。
土壌に加えたS⁰1分子につき、H⁺イオンが2個発生するが、植物の取り込みにより、H⁺イオンを取り込むか(OH-イオンの排泄と同じ)、植物内でOH-(実質的に有機アニオン)を生成してアルカリ性の植物体を形成する(「灰アルカリ」)ことによりバランスを取ることが可能である。 農産物が除去される場合(農業システムではしばしばそうなる)、S⁰またはATSが使用されると土壌の正味の酸性化が起こる。
カリウム
土壌に加えられるKの形態-カリのムリエート(KCl)またはカリの硫酸塩(K2SO₄)は土壌酸性化に影響しない。